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菊池亜希子×三根梓 対談、初共演作「海のふた」の魅力を語る


現在公開中の映画「海のふた」。よしもとばななの同名小説を映画化した本作は、かつて観光地として栄えていた海辺の町を舞台に、東京での仕事を辞めて生まれ故郷でかき氷店を開くために帰郷した“まり”と、大切な人を亡くし心に傷を負った“はじめちゃん”が自分らしく生きる道を探す、そんな2人の心の交流を描いたひと夏の物語。

主演の“まり”役には、自らが編集長を務めるムック本「菊池亜希子ムック マッシュ」で独自のカルチャーを発信している菊池亜希子。そして、顔に火傷の痕が残り心に傷を抱えている“はじめちゃん”を好演しているのは、その存在感が光る三根梓。原作の世界観を見事に体現した2人が、物語の中で感じたことやお互いの印象、さらには今作の魅力について語ってくれた。

――お二人は今作が初共演。お互いの印象はいかがでしたか?

三根梓(以下、三根)「(菊池さんは)すごくかっこいいお姉さんというイメージです。だけど、お茶目な部分や自由な雰囲気もあったりして、とても素敵だなって思いました」

菊池亜希子(以下、菊池)「わたしは“自分の意思を持ってしっかりしている”とか“文学的だ”とか、普段はそういうイメージを持たれることが多いんですけど、実は妹気質なんです。最近、年下の女優さんと共演することも多くて、年上だから最初はしっかりしようとするんですけど、最終的には“大丈夫!?”って面倒見てもらったり……(笑)」

三根「(撮影の合間に)ふたりで温泉に入ったとき、寝てましたよね(笑)?」

菊池「寝てたかも(笑)。お風呂のときは割と“無”になるので……」

三根「しっかりしていると思ってたら、そういうお茶目な部分もあったり」

菊池「ちょっとアンバランスなんです(笑)」

――では、菊池さんから見た三根さんの印象は?

菊池「まず、わたしの好きな顔だなって。いい意味で今時っぽくない顔立ちというか、佇まいがすごくいいなと思いました。横顔を見てると、何か潜んでいるような雰囲気もあって、それを携帯で隠し撮りしていました(笑)。それが、すごくいいカットが撮れていて」

――お二人の楽しい撮影風景が浮かんでくるようです(笑)。撮影は西伊豆の土肥町で行われたそうですね。

菊池「10日間、土肥で合宿状態でした。撮影場所は、宿から徒歩1分ぐらいのエリアがほとんどだったので、逆に身体的にはストレスもなく、ちゃんと寝て朝起きてっていう健康的な毎日でしたね」

三根「まるで、夏休みの思い出のような感じでした」

――今作で演じた役どころの女性像で共感できるところはありましたか?

菊池「私は“まり”という人物が共感という言葉を超えて、彼女の言うことや行動パターンが簡単にイメージできるぐらい近かったので、逆にイラ立ちを感じてしまう部分もありました。“まり”は何故ここでこういう言葉を言えるんだろうと思いながら、でもそれを言っちゃう節はわたしにもあるなと感じたり……、だから“まり”を心から好きになるのが難しかったです。同族嫌悪的な感じというか、すごく自分にも思い当たる節があって、目を背けたくなる部分もありましたね。でも、“まり”を演じるには、そうした自分の見たくない部分もこじ開けないといけないなと感じたシーンが多かったです」

――“まり”が幼馴染みで元恋人のオサム(小林ユウキチ)と衝突したあとに泣くシーンが印象的でした。

菊池「“まり”が、目を背けたい現実を突き付けられて、わけが分からなくなったあのときの感情を思うと涙が止まらなくなって……。(撮り終えたあとは)何かが抜け落ちたというか、つっかえていたものが取れてすごく楽になったような感覚がありました。あのシーンは、朝方に撮ったんですが、あの光景はすごく印象に残っています」

三根「これまでお姉さんみたいに頼っていた“まり”ちゃんが、子どもみたいに泣きじゃくるのを見て、今度は自分が一緒に寄り添ってあげたいと素直に思えた、生の感情が溢れているようなシーンでした」

――劇中ではアフリカに伝わるというお守りで、悲しいことイヤなことを全部吸い取ってくれるというぬいぐるみが出てきます。“まり”と“はじめちゃん”のお互いがそのような存在だったのではと感じました。

菊地「あの部分は、ものすごくファンタジーな感じがしました。“はじめちゃん”は目が合ったらつい微笑んじゃうような気持ちがゆるむ存在で。ひと夏だけの出会いがすごく濃かっただけに、“はじめちゃん”といた夏は夢だったんじゃないかって“まり”はきっと想うときがある気がするんですよね」

――豊島圭介監督の演出はいかがでした?

三根「繊細な表現を求められることが多かったのですが、わたしは頭で考え過ぎちゃって固めてしまうところがあって。芝居が変えられなかったり、監督に求められているニュアンスにうまく応えられなかったり、その難しさをすごく痛感させられた現場でした。あるとき監督に『頭の中を空っぽにして、その瞬間に感じたものを素直に伝えるってことだけを考えてほしい』って仰っていただいて。その大切さに気付いてからは、演じていて“はじめちゃん”がどんどん自分に降りてきてくれたような感覚がありました」

菊池「ちょっとガサツでおてんば気質な“まり”の自然に出てくる動きが難しく、1度考え出すとギクシャクしたりして……。そういうときに監督が適切なヒントを投げかけてくれました」

――都会を離れて自分の好きなことで生きていこうとする女性を演じて感じたことは?

三根「潔い生き方でかっこいいなと思いました」

菊池「東京に出て、自分の中では負けたとは認めたくないけど、挫折を味わい、ある意味消去法みたいな感じで故郷を選んだのかもしれないけど『それの何が悪いの!?』ってことを、わたしもこの年齢でようやく気付けた気がしていて。何かを目指して東京に出てきて、行き場が無くなったときに、選択肢の中で故郷に戻るというのは決して負けではなくて、そこからもう一度立ち直そうという生き方はすごく尊いと思います。この作品は、そうした自分にかけていた負荷をちょっと下ろして、負けではなくて認めてあげること、“これでいい”って思えるひとつの生き方を見出していて、多くの人に勇気を届けられるのではと感じています」

――綺麗事だけじゃない現実的な部分も見えてきますよね。

菊池「30歳前後の世代的にとっては、こういう問題って決して他人ごとじゃなくて、わたしの周りにもたくさんいます。ずっと目指していた夢を諦めて、生きる場所を変えたからといってそこからスムーズに進むわけじゃないですし、むしろ勝負はそこからですよね!? でも、そこで方向転換をした勇気にわたしはエールを送りたいと思うんです」

――そういう生き方も見どころのひとつとなっている作品ですね。

三根「穏やかな暮らしとともに、だからこそ直面する過疎化など現実的な問題も丁寧に描かれていて、迷いながらも新たな一歩を踏み出そうとする“まり”と“はじめちゃん”の姿に何かを感じていただき、作品を観た皆さんが一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです」

菊池「“自分が好きなことをして生きていくことの過酷さ”や、“自分の人生を、どんな場所で何を大切にして生きていくのか”というような、人が生きていく上での本質的なテーマが色鮮やかに描かれています。観終わったあと、自分自身の物語に想いを馳せてもらえたら嬉しいなと思います」

映画「海のふた」は、新宿武蔵野館ほか全国公開中。

配給・宣伝:ファントム・フィルム
© 2015 よしもとばなな/『海のふた』製作委員会

<関連サイト>
「海のふた」 http://uminofuta.com