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田口トモロヲが映画「ピース オブ ケイク」で描きたかったもの「失敗も含めて恋愛」


田口トモロヲは、これまでに「アイデン&ティティ」「色即ぜねれいしょん」の2作品を監督し、繊細な人間描写が高い評価を得ている。今作「ピース オブ ケイク」では、今まで描いてきた泥臭い青春モノとうって変わり、主演に多部未華子、共演に綾野剛を迎えて、きれいごとでは済まされない20代の恋愛を赤裸々に描く。

“何であんなこと言っちゃったんだろう……?”誰もが経験する理不尽な心の動きを、田口監督は優しい眼差しでていねいにカメラに収める。「ピース オブ ケイク」のBlu-ray&DVD発売直前、エンタメプレックスは田口監督にインタビューを試み、映画に込めた思いや出演者の印象などを聞いた。田口監督は「誰しも黒い部分は持っている。それを含めて人間」と答えてくれた。

――映画は昨年9月に公開されましたが、印象に残った反響はありましたか?

「知り合いから『渋谷の劇場で映画を観た』と伝えられまして。着席すると、どうも隣のカップルがケンカしていたらしいんです。たまにトゲトゲしい口調で会話をしていたそうで。でも、映画が終わったらそのカップル、めちゃめちゃ仲良くなっていたと……」

――そのまま宣伝に使えそうな(笑)。

「僕も最初聞いたとき、『それ、できすぎてない?』と確認したんですけど、『本当だ』って。なるほど、そういう人たちのためにこの映画は存在したんだなと(笑)、うれしい感想でしたね」

――2015年冬にはシドニーで開催された日本映画祭にも出品されましたが、現地での反応はいかがでしたか?

「オーストラリアの記者からいくつか取材を受けたのですが、『20代男女の感情は普遍性があるものだから、(感覚が)じゅうぶん伝わった』との評価をいただき、安心しました」

――25歳の女性が主人公ということで、心理を理解するためにご苦労されたとか。

「その点は原作マンガにすべて書かれていると思うので、どれだけこと細かに読み取っていくかという作業と、原作から映画製作までに時間が経っているので、現代の物語として検証していくことを心がけました。最終的には脚本を作るのに1年くらいかかりましたが、ちょうど撮影に入ったとき、多部さんが25歳だったんです」

――主人公の年齢とちょうどかぶったと。

「はい。ですから多部さんや同年代の方たちに脚本を読んでもらって、登場人物たちの行動やリアクションにウソがないかを確認してもらいました。『間違っていたら指摘してください』と」

――多部さんからの具体的な指摘はありましたか?

「神社で、綾野くん演じる京志郎の言葉に多部さん演じる志乃が泣き出すシーンがありますが、人のいない路地裏に移動する時間経過があり会話することを予定していたんです。でも、多部さんから『泣いていた感情のままじゃないとこの会話はできない』とかですね」

――そうした指摘によって原作との差も生まれてきたのでしょうか?

「マンガは表現方法が自由な世界なので、それを肉体化して実写化していくときに、表情やセリフのニュアンスに誤差が生じると思うんですね。そこをマンガっぽく表現するか、リアルに落とし込むかを選択する必要が出てくるのですが、今回の場合は、本読みとリハーサルを重ねてリアルな方向性を選びました」

――原作では、ドタバタの表現が「マンガだから」って場合もありますよね。

「そうなんです。最初リハーサルでは、綾野くんと多部さんの掛け合いがすごく速かったんですね。ポンポンと、とてもコミカルなんですが、少し違和感を感じて。そこで、あえて間を入れたりして現実的な方向で進めましょうという話をしました」

――これまで田口監督が手がけた映画とはだいぶ違っているのでしょうか?

「一見すると、これまで撮ってきたテーマと違うように見えますが、やっぱりリアルで、等身大で、内面的にこんがらがっちゃっている人間の『何か』を描きたいのは同じですね。面倒くさいエモーショナルなものをキュートに表現したい。今作は、きれいごとではないラブストーリーをきちっと描きたいと思いました」

――理想を提示するようなラブストーリーも多いなか、まるで自分の恥ずかしい経験を思い出させるほどのリアルさに、いくぶん拒否反応を持つ人もいるかもしれません。

「でも、『そういう失敗も含めて恋愛なんだ』と、愛情深く見せたかった。誰にでもある20代の時期なんです。試行錯誤しながら立ち直って、また同じ過ちを犯したり。あえて相手に嫌なことを言って別れようとするような、自意識がごちゃごちゃになっている状態ですよね。もちろん、つらいことではあるんですけど、見ている人に『そうだよね、これもアリなんだよな』と考えてもらえるとうれしいですね」

――最初、田口監督も主人公・志乃の行動を「なんだこの子は」と感じていたそうですね。

「原作を読み始めたときは、中途半端にモテるのでイラつきました(笑)。でもあるときから『そうか、この子は恋愛映画の悪役なんだ』と思ったんです。悪役って魅力的じゃないですか。その視点で彼女の行動を追うとどれだけ可愛らしいかわかります。人間誰しも黒い部分があって、表面に出てしまう。誰もが通過してきたそんな時期を愛らしくも感じます」

――制作していて、ご自分の「通過儀礼」の時期を思い出すことはありましたか?

「ありましたね。撮影していて痛い気持ちになりました」

――多部さんはご自分の役についてどのように感想を持っていましたか?

「原作を読むなり、『すごくよくわかる』とおっしゃっていました。かなりきわどいラブシーンなどもあるのですが、キップよく演じてくださったので、ありがたかったし感心しました。ラブシーンの撮影などは、スタッフが神経質になるのですが、多部さんはまったく動ぜず、男前な印象です(笑)」

――多部さんと綾野さんは初共演だったそうですね。

「個人的な印象ですが、ふたりはまったく違うタイプだと思います。演技の作り方とか。綾野くんは直感的で、多部さんはかっちりと作っていく感じです。それらの個性をうまく生かす方法で映画を作りました」

――今後、どのような映画を撮りたいですか?

「いくつか考えているんですが、ひとつは自分が経験した80年代のインディペンデントのロックシーンを映画として残したいな、と思っています。僕がバンド活動していたより少し前の『東京ロッカーズ』の方たちくらいのインディーズ・ムーブメントを取り上げて、シーンの改革者たちの物語を描けたらな、と考えています」

映画『ピース オブ ケイク』のBlu-ray&DVDは、2月2日(火)リリース!

© 2015 ジョージ朝倉/祥伝社/「ピース オブ ケイク」製作委員会

<関連サイト>
映画『ピース オブ ケイク』 http://pieceofcake-movie.jp/
芝居の常識をぶち壊す舞台「ツチノコの嫁入り」、主演の山本裕典がその魅力を語る http://www.entameplex.com/archives/23936