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木村佳乃“思い通りの人生なんてつまらない”映画『星ガ丘ワンダーランド』インタビュー


“守りに入るよりも、新しいことに挑戦するのが自分のスタイル”
そう語るのは、女優の木村佳乃。
デビューから今年で20年を迎え、今なお攻めの姿勢を貫くその凛とした佇まいは、様々な期待を抱かせてくれる。

そんな彼女が、3月5日より全国公開となった映画『星ガ丘ワンダーランド』で演じるのは、突然幼い子どもたちを捨てて蒸発した母親・爽子役。彼女が20年後に謎の死を遂げたことをきっかけに、物語はゆっくりと動いていき、真実が明らかとなったその時、切なくも心温まる、至極のミステリー作品となっている。

“身が引き裂かれるような思いだったと思う”と爽子について語る木村自身も母となったからこそ分かる感情や時折見せる母性溢れる表情は、作品により深みを加えたに違いない。今回は木村が爽子を演じて感じたことや本作の魅力、そして女優としてのこれから、など話を聞いた。

――木村さん演じた母・爽子の女性像にどんな印象を持ち、どう役作りをしましたか?

「愛情が深い女性だと思ったと同時に、ある種の淋しさをすごく秘めた女性だなと感じました。私が演じたのは、主人公・温人(はると)の記憶の中にある母親なので、すごく淋しそうだったり、すごく楽しそうに見えたり、そのどちらの表情もあくまで彼の思い出の中にある母親の姿なんです。回想(シーン)でしか出てこないので、謎な部分も多いんですけど、それは柳沢監督の狙いだったりもしていて、役柄として説明しすぎないように気を遣いましたね」

――柳沢監督の演出はいかがでした?

「柳沢監督の中に、温人の思い出の中の母親としてのイメージが具体的にありましたので、そのイメージに近付けようと非常に細やかな部分まで話し合いました。爽子がどう思っていたのか、ということよりも、温人の目にどう映っていたのかを想像しながら演じました」

――実生活では2児の母ですが、母になって意識の変化や演技面で変わったことはありましたか?

「子役とのコミュニケーションの取り方でしょうか。子どもは飽きっぽかったり、大人よりも疲れやすいし、寒さや暑さにそれほど強くないので、現場では大人がケアして守ってあげるべきだと思います。撮影に飽きてふざけ始めたら“あともうちょっとだから頑張ろうね”って諭したり、以前よりも接し方が分かるようになりました。今回も、撮影の合間に宿題を見てあげたり、喋ったりして楽しかったです」

――今回演じたのは、家族を捨てて蒸発してしまう母親役。心苦しい部分があったのでは?

「爽子も、すごく辛かったと思うんです。もちろん子どもと離れ離れになりたくはなかっただろうし、出て行きたくなかったと思うんですけど、そうせざるを得ないどうしようもない状況だったのではないでしょうか……。本当に身が引き裂かれるような思いだったと思います。その後、ひっそりと息子たちと関わりを持とうとしていたんですけど、謎の死を遂げてしまって。人生って思い通りにならないことがたくさんありますよね」

――木村さんは、何事も完璧にこなし、順風満帆なイメージです。

「失敗もするし、悔しい思いをしたりもします。それこそ、何でも自分の思い通りになったら人生つまらないでしょうね。何が起こるか、先のことは誰にも分からないですし、いろんなことがありながらも、そうした部分も受け入れながら生きていく方が、すごく素敵なことなんじゃないかなと思います」

――今年はデビューから節目となる20年を迎えます。振り返ってみていかがですか?

「映画でのターニングポイントとしては、磯村一路監督の『船を降りたら彼女の島』(2003年2月公開)という作品に出演させていただいたことがすごく印象に残っています。確か26歳の時に出させていただいた映画なんですけど、その頃はありがたいことに連ドラが2本、3本と重なって、朝4時まで撮影して7時に別の現場に入ったり……といった状態だったんですが、初めて1ヶ月間の長期ロケで愛媛県の島に行って。照明さんや音声さん、AP(アシスタントプロデューサー)さんなど、みんな同じ宿でずっと一緒だったのですごく仲良くなって。映画に関わる方たちが、それぞれどういう役割や動きをしているのか、1ヶ月を通してすごく分かったんです。みんなでひとつのものを作り上げるチームなんだって感動したのを憶えていますね。映画が好きでこの世界に入ったので、ちゃんと映画女優を目指したいと改めて思った瞬間でした」

――ゆっくり自分と向き合えたロケだったと。

「その時演じた役が結婚の報告をするために故郷に帰ってきて、自分の過去を振り返るという設定だったので、ちょうどそこも重なったんです。島ではお店も早く閉まっちゃうので、宿でずっと本を読んで過ごしたり、空き時間に衣裳さんやメイクさんと輪になってみかんを一緒に食べながら編み物をしたり、撮影が終わって一緒にスーパー銭湯に行ってビールを飲んだり(笑)。そういう時間をともに過ごせたこともすごく幸せに感じました」

――今作では、真っ白な雪景色の中、木村さんの赤いコート姿がすごく映えて綺麗でした。

「あの赤いコートを決めるだけで衣裳合わせが終わっちゃうんじゃないかっていうくらい、柳沢監督がこだわっていました。たくさんの中から2着まで絞ったんですが、自分で洋服を買うときに悩んでもこんなに着ないぞっていうくらい何回も着比べて(笑)。温人が子どもの時に雪の中で見たあの時のあの色……、色の記憶ってあると思うので、赤いコートにこだわる必要があったんだと思います」

――中村倫也さんとはNHK連続テレビ小説『風のハルカ』(2005年)で初共演して以来ですね。

「役に真摯に取り組むとても研究熱心な役者さんで、出会った当時からすごく仲良しなんです。彼は演技がうまいですし、この作品の主演が倫也くんだと聞いて、ぴったりだと思いました」

――初共演のときの印象と変わった部分はありました?

「大人っぽくなりました……ってそりゃそうですよね(笑)。倫也くんは、静かそうな顔をしてるけど、ものすごく向上心があって負けず嫌いだし、内面はメラメラと燃えているタイプなんです。絶対、期待以上のことをやってくれるだろうなって思っていましたし、とても素敵でした。ふと考えてみたら私、(この作品では)倫也くんと(佐々木)希ちゃん、菅田(将暉)くん、新井(浩文)さんと4人のお母さんなんですよ。そう考えるとすごいなって(笑)」

――それも驚きですが、今回は主題歌『雪明り 星明り』も担当していますね。

「お恥ずかしい(苦笑)。最初に主題歌の話を聞いた時は“倫也くんが歌わないの!?” って思いました。彼はストレートプレイもミュージカルも出来る歌のうまい俳優さんなので、彼が歌った方がいいんじゃないかなって(笑)。でも、柳沢監督の中に子守唄として女性に歌って欲しいというイメージがあったみたいで、今回引き受けさせていただきました。実際、レコーディングの時も柳沢監督がいらしてくださって“歌い上げるのではなく、両手で赤ちゃんを抱きかかえて子守唄を歌っているような気持ちで”とアドバイスをいただいて。エンドロールで流れる曲なので、最後まで作品の余韻に浸ってもらえるように、気持ちを込めて歌いました」

――今回の主題歌もそうですが、昨年のバラエティ番組でのMCなど新たなことへのチャレンジは刺激的ですか?

「そうですね。今年で20年、ここで守りに入るのか、新しいことをするかで、今後の20年が随分と変わってくると思うんですよね。ですので、継続しながら新しいことにもどんどん挑戦していくというのが自分のスタイルには合っていると思います」

――具体的に挑戦してみたいことはありますか?

「最近、ヒラリー・スワンク主演の『ボーイズ・ドント・クライ』(1999年/日本公開は2000年)とか、性をテーマにした映画をたまたま続けて観る機会があって……、とても繊細な悩みや問題だと思いますが、バイセクシャルや性同一性障害など性をテーマにした作品を自分が演じてみたらどうなるだろうと、興味があります」

――最後に、木村さんの思うこの作品の見どころをお願いします!

「この物語は、淡々と進んでパッと終わるのかなと思っていたら、予想もしなかった方向に話が進んでいくミステリーな部分もあれば、母親の愛情に心温まったり、とても心に突き刺さる映画です。最終的には主人公の温人が、ずっと心の中で引っかかっていたものがやっと取れて……、温人のこれからがどうなるのかが母としてとても楽しみです」

映画『星ガ丘ワンダーランド』は、全国公開中!

© 2015「星ガ丘ワンダーランド」製作委員会

<関連サイト>
映画『星ガ丘ワンダーランド』 http://hoshigaoka-movie.com/
木村佳乃、母性溢れる歌声が心に染み入る主題歌『雪明り 星明り』配信開始! https://www.entameplex.com/archives/27322
木村佳乃が歌う『星ガ丘ワンダーランド』主題歌のPV解禁! https://www.entameplex.com/archives/27528