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女優・寺島しのぶが語る映画の魅力、それはただ見るのではなく“考えること”


編集者・宮本守とその友人の作家・村岡正夫。正夫はかつてヒット作「秋の理由」を生み出しながらも、いつのころからか小説を書くことができず、声を失ってしまった。そして、そんな彼を献身的に支える妻・美咲。そして、「秋の理由」をこよなく愛するミク。そんな4人の揺れ動く心と、少しずつ変化していく関係性を描いた福間健二監督の映画「秋の理由」。

今作で美咲を演じた寺島しのぶは、この映画について“久々に観客が豊かになれる映画だと思う”と話してくれた。
そして“映画のあり方を改めて感じさせられた”とも。
果たして、その言葉が意味するものとは……。

――いきなりですが、寺島さんは今作に登場している美咲の夫・正夫とその友人・宮本、どちらがいいなって思います?

「どっちだろうな……今の段階では宮本かな。だって正夫は辛いし」

――ですよね……でも、そんな正夫と美咲は結婚している。それは何でなんだろうって考えちゃいました。

「やっぱり作家としての才能、彼が書いた作品に惹かれた部分はありますよね。今は話せなくなってるけど、以前は違ったわけで。すごく楽しかったんだと思いますよ」

――それは映画には描かれていない部分ですね。

「そう。でも今は全然違う。そんな中でサポートしてくれる宮本がいて、美咲は彼に支えられている部分が結構あったと思うんですよ。正夫と宮本、2人の力関係は絶対的に正夫にあるけれど、彼は(小説が)書けないのを理由に3年も声を失って、いつ回復するかもわからない。そこで生まれた夫婦間の溝は宮本がいたからこそなんとかなっていたと思うんです。美咲は宮本に対して“ラブ”ではないけど間違いなく“ライク”。その中間にあったと思いますね。彼がいなかったら全部壊れていただろうし」

――確かに宮本は素敵な男性でしたね。

「映画では2人の男同士の友情が詳しくは説明されてないけど、それはすごく深い。宮本が正夫はまだ小説を書けると信じている姿もすごくいいなって思いますけど、奥さん(美咲)の立場からだとそれがまたすごくキツイはずなんです。最後のシーンでもすごく迷っていたわけで」

――ラストを含め、この映画はすごく想像力をかき立てるというか、考えさせられる作品でした。

「福間(健二)監督が“これが映画だ”って仰っているのがよくわかりますね。観客がそれぞれ好きに感じてもらって結構ですという感覚。行間も全部好きに想像してくださいっていうところが大人でかっこいいですね。今の映画は情報過多で、わかりやすいものが良しとされている。でも、これは久々に観客が豊かになれる映画だと思うんです。こういった映画はぜひ大事にしてほしいと思いますね」

――筆談のシーンでも書かれていることをあえて見せなかったり、仰る通り行間がすごくありました。そこが監督の度量なんですね。

「そうですね。かつてと言ったらなんですが、例えば若松(孝二)監督や荒戸(源次郎)さん、昔の監督は腹が据わっていたんですよね。でも、今の若い方の中にはなんとか理詰めで辻褄をあわせようとしたり、伏線に縛られていたりして。私は“そんなのどうだっていいんだよ”ぐらいの気概が好きなんです」

――今回演じられた美咲は一筋縄ではいかない女性というか、男性からすると女性はわからないと改めて思い知らされました。

「まさにその通りですね(笑)。それは監督から見た女性像なのかもしれないし、監督の奥さん像かもしれない。でも、いろいろなエッセンスが入っているにも関わらず、近年あまりないくらいに彼女は普通と言えば普通で(笑)」

――そうなんですよ。そこがまた怖くて。

「どこにでもいそうな役はある意味とても難しいんですよ。そんな中で宮本役の伊藤(洋三郎)さん、正夫役の佐野(和宏)さん、2人とのお芝居で生まれる空気感みたいなものと、それこそ本編に描かれていない部分……なぜ2人は夫婦になったのか、何を信じてまだ一緒にいるのか、そういったバッググラウンドがない中で説得力が出せるかどうか。それは賭けでしかなかったんですよね」

――それは経験でなんとかなるものでもない?

「なるものもあるんですけど、やはり相性とかもあるので。佐野さんとは初めは筆談ボードを使ってやりとりしてましたけど、途中でそういうのは必要ないって思ったんですよ。だんだんボードに書く前にわかってきて。そういった向かっていく方向が合う瞬間が結構あって、それは嬉しかったですね」

――それは演技の際だけでなく? ちょっとした夫婦みたいな感じですね。

「撮影前に話しているときからですね。それは結構難しいことだし、初対面でそうなるのはなかなかないことだと思うんですが、今回に限っては佐野さんありきという監督のエネルギーがすごくて。そして、佐野さんもそれに応える心意気があったんですよ。だから私はそこにどう漂っているか、どう存在しているべきかだけを考えていられたので、本当に役に集中できましたね」

――美咲と寺島さんの間に共通点のようなものは感じました?

「彼女のように私も意外と我慢することかな。そしていつか爆発する(笑)」

――それは怖い……。

「何かあったら逐一言った方がストレスは溜まらないかもしれないけど、いちいち言ってたら時間がもったいないし、我慢できることはしちゃえってタイプなんです。ただ、溜まったものを常に吐き出しているわけじゃないから、最終的には爆発しちゃうんですよね」

――今回の美咲の破壊力も相当でしたからね。女性は怖いです(笑)。

「女性は我慢するというか、母性が出てきちゃうんですよ。彼女も正夫に対していわゆる介護みたいになっているけど、でもそれが全てじゃない。いろいろなことが積もり積もって最後に……。そこはわからなくもないですね」

――それは男性から見ると恐怖でしかないです。

「私もそうだと思います(笑)」

―― 一方で今作における正夫と宮本の関係性。60歳を過ぎて芯を昂らせている生き方には憧れを感じました。

「そうですね。この作品は監督が親しくされていた作家さん(『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』などの原作者である佐藤泰志さん)が自殺したところから始まったと仰ってましたけど、様々なバックグラウンドが監督の中で敷き詰められているんですよ。それはすごく感じました」

――それだけにリアルで説得力もある。

「内容もそうだけど、文字と言葉の力強さみたいなものもありますよね。非常にインテレクチュアル(知的)な作品だと思います」

――言葉という部分ではすごく強さを感じる反面、一瞬音がなくなるような感覚もして。

「セリフ自体は結構美しくてキレイな、そんな言葉を発しているんですが、本当に言いたいことは暗くて、黒い。そこは監督も“僕の作品は美しくもなんともない”って仰ってましたけど、そういう部分も確かにありますね。人間関係のやりとりって、いくつになってもきっと誰かと繋がっていると思うんです。ただ、人と人が繋がりつつも最後は個人でいろいろな葛藤がある。そんな個と繋がりが今回はすごくバランスよく描かれると思うんです。正夫はものすごく孤独だけど、なんとか繋がろうとしてる。それはシビアだなって思うし、考えさせられることも多いですよね」

――バランスもそうですが対比も気になりました。正夫と宮本、美咲とミク。その中で宮本の私生活があまり描かれていないのが印象的で。キーパーソンなのに彼の日常がわからないっていう。

「そこも絶対に何かあるんですよね。そうやって作品を見て考えてもらえるとすごく嬉しいです」

――考えることが重要だと。

「今こういった映画は作られているけど、しっかりとみなさんの前に出せるものは少ないと思うんです。インディペンデント映画ってメジャーのお金のある作品に比べて宣伝費がないし、観客も少ない。でも、私はそういったマイノリティを大切にしていきたい。届き辛いとは思うんです。なぜなら今の世の中は情報が飛び交っていて、映画も言葉で説明して、観客は何も考えなくてもわかるようなものが多いから。でも、それだけだと観客はどんどん浅はかになっていってしまうと思う。この映画のように“何だったの?”って考えることが大事。私はこれぞ映画だなって思います。映画のあり方を改めて感じさせられましたね」

――それは決して規模感で計れるものじゃないんですね。

「どこかフェアじゃない気がするんです。インディペンデントとメジャーで。クオリティで考えればインディペンデントでも高い作品はいっぱいあるのに、興行や動員などの数字でジャッジされてしまうのがどうしても納得いかなくて。だからこそこういった映画、自分がいいと思う作品にはどんなことをしても携わっていきたいし、そういったものを多くの人に見てもらえるような橋渡し的な存在になれたらって思っています」

映画「秋の理由」は、10月29日(土)より新宿K’s cinemaほかにて全国順次公開。

©「秋の理由」製作委員会

スタイリスト:中井綾子(crêpe)
ヘアメイク:片桐直樹(EFFECTOR)

【衣裳協力】
Dorothee Schumacher
REKISAMI
e.m.

Photo by 竹内洋平

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