Entame Plex-エンタメプレックス-

観覧者が参加し考える新感覚舞台、渡部樹也が体現する新たな舞台の形とは


「そもそも僕は表に出るのが恥ずかしい質なんですよ」

6月25日より上演される舞台「ルキアの使い手」で、脚本、演出、そして主演という三役を担う渡部樹也。主演でありながらこの発言、その真意はどこにあるかと言えば

「カメラ恐怖症みたいなところがあって……。ただ、何かフィルターを通して自分を表現するということには抵抗がないんです」

とのこと。つまり、彼は演じることとは別の形で、自らの表現を模索する探求者なのだ。

渡部樹也、彼は俳優:渡部篤郎とRIKACOの間に生まれ、昨年19歳という若さで「リリィの語り部」という舞台で初脚本、初演出を手掛けた、まさに新鋭。そんな彼の新作「ルキアの使い手」。そこでは前述の通り、脚本、演出、主演と三役をこなし、さらには既存の舞台とは異なる“観覧者参加型”という新たなステージを目論んでいる。果たして、どんな舞台となるのか。今回は「ルキアの使い手」のこと、さらには彼のアイデンティティを探るべく、渡部樹也の目指すところを聞いてみた。

――今回は脚本、演出、主演の3つ担っていますが、本来は演出、脚本が主なんですよね。
「以前から作家方面で何かやっていきたいという思いは強く持っていたんです。一時は、専門の学校に進学することも考えたんですが、先に実績を積んだ方が人に信頼してもらえるのかなと思って。まずは、演出家の伊藤和重さんに助手として携わらせていただいて」

――それがスタートだったんですね。
「しばらくして、19歳のときに「リリィの語り部」という舞台、僕の旗揚げ公演をやらせていただいたんです。ただ、そこでもやはりいろいろと問題は多くて。でも、僕にはどうしても体現したい理想がある。それを表現するにはどうしたらいいのか考えたときに、まずは自分でも役者を経験してみようと思ったんです。今回の舞台は、そこで感じた疑問というか、言うなれば演者とお客さんとの距離の違和感、そこに対してのカウンターカルチャーなんですよね」

――今回は主演も自身でやられるわけですよね。
「当初、主演も募ろうと思ってたんです。ただ、僕の中で“ものづくりにおいて人数を増やせば増やすだけ、それは純粋なものではなくなる”という確固たる考えがあって。少人数でやった方が純度の高い作品はできると思うんです。そこで今回は役者は極力少なく、それも自分がよく知っている人、前回の舞台を見て面白いと思ってくれた方だけに声をかけて。あとは主演だけってなったんですけど、それがなかなか決まらない。どうしようってなったときに、僕が脚本を書き演出もする。そして少なからず役者経験もある……僕がやるしかないなと」

――でも、自分の思いを存分に表現するにはそれがベストだったのでは?
「そうなんですよね。やっぱりその方が自分のやりたいことを限りなく近い形で表現することはできるかなと。実際に稽古をしていてもやりやすい部分はありますしね」

――でも、脚本や演出の今後に関して言えば、役者経験は大きな糧になるのでは?
「認めたくないんですけど……演じると脚本が客観的に見れる。悔しいけど、役者としての経験をしたことで脚本のことがよくわかるという事実はありましたね。文字ではわからないこと、役者さんが言い辛そうにしていたことも、実際に演じる、自分で声を発してみるとその理由がわかりますし。今回の舞台における僕のポジションとしては、役者として出ることに意味なんてないと言いたいところですけど、それは多いにあると思います。ただ、次にまた舞台に立つかどうかはそのときに考えます(笑)」

――元々、脚本や演出に興味があったんですよね。
「演出には(興味は)なかったんですよ。ただ、自分の作品、脚本を形にする最速の方法を考えたときに、小劇場の舞台ならできる。そして、脚本を一番理想に近づけるためにはどうすればいいのか、自分で演出するしかないってなって。主演が見つからない、なら僕がやるというのと理論は同じですね。結局、僕は脚本をベースに自分の理想を体現したいんです」

――ものを書くことが好きなんですね。
「大好きですね。ただ、読むということに関して言えばマンガが好きです。小説は全然読みません。小説は買ったら普通最後まで読みますよね。でも、商業的な部分で言うと買ってもらった時点で勝ちだと思うんです。読んでも読まなくても変わらない。だけど、マンガ、特に週間連載は継続性を持たせることが必要で、続けて読んでもらわないと意味がない。つまり、ちょっとした刺激を毎週届ける、それが僕の性格にとても合っていて、好きなんですよ」

――そうしてマンガを読んでいるうちに自分でも物語が作りたくなったと。
「そうなんですよ。特に青春時代あまり楽しい思い出がなくて……そこに対してのカウンターでもあって。そんなにマンガが好きならマンガ家やれよって話なんですけど、僕には絶対的に絵心がない(笑)。文章って、言い方悪いですけど、文法は基本いつの時代も変わらない。書こうと思えば、誰でも書けるんですよね。そこにはアイディアが必要ですけど。技術的な部分は次のステップ。でも、マンガは最初からある程度の技術が要求される。文学の方がその門戸は広いんです。ただ、それも難しいことですけどね」

――あとは、考えていることがいかに文字にできるか、そこに尽きますね。
「それは大きいですね。そういったこと全て考えた上で、僕には継続的に刺激を与え続けるスタイルっていうのが最高の手段であり、すごく可能性を感じていて。小説家になりたいとも思うんですが、脚本ならそれができると思ったんです。今では、脚本家の方が自分の性格には合ってると素直に思います」

――今回の舞台では、お客さんが参加し一緒に作っていく。これは、二度と同じことができない舞台とも言えますね。
「絶対にないですね。今回限りのことがすごく多いです。それに、小劇場だからこそできることも。それが、舞台における1つの皮肉、アンチテーゼに繋がればと思っている部分もあるんですけど」

――脚本家:渡部樹也として、今回の舞台の面白みはどこにあると思いますか?
「やはり舞台に対するカウンターカルチャー。古典演劇と大衆演劇の融合への挑戦ですね。あとは、リアルタイムに反映させるお客様と役者の意思の統一です」

――それはすごく今っぽい。ネットに近い部分もありますね。
「確かにそうですね。舞台は料金が高い、拘束時間が長い、途中おしゃべりすることもできない……となると家でネットで動画見てた方がいいじゃんってなってしまう。そういった層にも響くもの、そう考えたときにこういった形もありなんじゃないかなと思って」

――舞台って一般的に敷居が高いイメージありますしね。
「それをいろいろな人が壊そうとしていますけど、僕も僕なりのやり方でできればと思ってて。それに、小劇場でこういったことを全力でやってみたいと思ってたんです。お客さんの反応が楽しみですね」

――今回はある種お客さんに委ねる部分もあり、最終的にどうなるのかわからない。それがまた魅力でもありますよね。
「物語の行方が決まっていないというのは、ある意味怖いし、最後まで成立できるのかどうか……。でも、僕自身は不安というより楽しみです。そして、役者の方々にも楽しんでいただきたいですね。今回はお客様と役者の融合、みんなで楽しむことを大きなテーマにしているので」

――新たな形の舞台「ルキアの使い手」、それを目にする前に読者に伝えておきたいことは?
「今回舞台に参加する際には、ぜひそのときの自分の気持ちを覚えておいてほしいですね。そして、なぜ舞台を見ているのかということに関して、もう一度考え直してほしい。ある種、この舞台はお客さんの意思を示す鏡なんですよ。その中で僕たちがやることは、みなさんの心情を映し出す鏡として演じさせていただくこと。舞台を見終わった後に自分がどう感じているのか、もう一度見つめ直してほしいですね」

――最後に今後の展望を教えてください。
「とりあえず表に出なくても自分のやりたいことがやっていけるように(笑)。あとは、何かコンテンツが作ってみたいですね。これは明確プランがあるわけじゃないけど、自分で何かできたら楽しそうだなと思ってて。とはいえ、主軸はシナリオが小説。どれも大変なことだとは思いますけど、僕はその大変なことを諦められなかったんです。学生時代から1人でやりたいことを模索していて、その結果今はそこに妥協ができなくなってしまった。自分の好きなことをやり通す、それは誰しも一度は思ったことだと思うんです。僕がそれをやり遂げることで、少しでもロマンを与えることができればなと(笑)。わがままも突き通せば形になるっていうことを伝えられたら嬉しいですね(笑)」

渡部樹也の舞台「ルキアの使い手」は、池袋シアターグリーンにて6月25日~28日まで上演。

<関連サイト>
「ルキアの使い手」 http://www.theater-green.com/system/perform_detail.php?cd=1767
アリーエンターテインメント http://alii-inc.co.jp
池袋シアターグリーン http://www.theater-green.com