Entame Plex-エンタメプレックス-

演歌からニコ動まで。小林幸子が幅広い世代から愛される秘密は「柔軟な発想」から来ていた


歌手の小林幸子といえば演歌の大御所だが、最近では「ニコニコ動画」に自ら動画を投稿したり、コミックマーケットに参加して若い世代からも人気を集めるなど、その活躍は目覚ましい。また、2015年大晦日には「NHK紅白歌合戦」(NHK総合)に4年ぶりの出場を果たし、ニコ動でお馴染みのボカロ曲「千本桜」を披露。衣装のバックに舞い散るコメントの弾幕が観客の度肝を抜いた。

スーパーメジャーからサブカルチャーまで、臆することなく挑戦を続ける彼女のバイタリティはどこから来るのだろうか。Entame Plexは、映画専門チャンネル:ムービープラスの番組『この映画が観たい』(5月2日(月)23時から放送)の収録後、小林にインタビューして、その心の内を聞いた。

――先ほどの番組収録で、以前に「映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」を観たとおっしゃっていましたが。

「よかったですよ。流行っているから一応観ておこうってつもりだったんですけど、泣いてしまいました(笑)。老若男女が“いいな”って思えるのが大ヒットする理由なんだな、と思いましたね」

――話題だからとにかく観てみようと。

「公演のツアー中で移動日だったんですよ。夕方に時間が空いたので行ってみよう! って。話題ということは観る人がたくさんいるわけでしょう? どうして、こんなに人気があるのか純粋に知りたかったんです。その日は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も観ましたね」

――『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は3Dでご覧になったのですか?

「いえ、2Dで観ました。私、SFの映画が大好きなんです。最近だと『進撃の巨人』や『寄生獣』も観ました。ちょうど『テラフォーマーズ』とのコラボ撮影のときに、『寄生獣』の話になったんですよ。それで観てみようって。怖いの大嫌いなのに(笑)。館内で『今出よう、今出よう』って常に腰を浮かせていました(笑)」

――『テラフォーマーズ』では、ツノゼミになったんですよね。

「そうですよ。特殊メイクして。あれは面白いですね。どんどん顔が青くなっていくんです」

――特殊メイクは初めてでした?

「はい。いつも特殊な衣装は着ていますけど(笑)」

――小林さんといえば、ネットユーザーとの密な関係性が話題ですね。

「皆さんからはそう言っていただけるんですが、実感はないんですよね。インターネットを通じたやりとりですから、実際に目の前にたくさん人が集まってくるわけではないので。でも、ニコニコ動画にアップしてみたら100万回再生など数字でわかるので、興味を持ってくれているんだな、と感じます」

――実体験で感じたことは?

「演歌のコンサートで、これまでとは明らかに違う客層の方々に来ていただけるようになりました。それに、盛り上がる箇所がまた別なんです。私が演歌を歌っているときにはじーっと聴いてくださるんですが、最後に『千本桜』を歌い始めたら、一緒に歌ってくれる」

――小林さんは、演歌とネットユーザーの架け橋のような存在ですね。

「いえいえ! そんな気はまったく持っていません。文化が違うものですから。お互いを握手させようなんて思ってもいないですし、それぞれ別の素晴らしい文化だと考えています」

――それにしても、小林さんは新たな分野に対するチャレンジ精神が非常に強い方だと思います。その心意気はどこから生まれているのでしょうか?

「持って生まれた性格かもしれないですね(笑)。あとは、もちろん自分がどう感じるのかも大事ですけど、提案してくれた方が『これは本当に面白い』と熱量を持っているかも重要なんです。『よし! それなら乗っちゃおう!』って(笑)。すごく軽いんですけど、すごく大事なことじゃないでしょうか」

――なるほど。

「新しいことにチャレンジすることは自由じゃないですか。ダメだったら止めればいいんだから。私、性格的にためらいや躊躇がないんです」

――昨年末の「紅白歌合戦」では、ニコニコ動画とのコラボで世間を驚かせましたが、今年の紅白は……。

「気が早いですね。まだ夏にもなっていないのに(笑)。こればっかりは分かりませんし……。ここ数年で色々と考えましたが、厳しい目標を掲げるよりは今を楽しむことが大事なのではないかと」

――世間では、今を楽しんで新たな道を切り開くことにためらいを覚える人も多いようです。

「立場が違うので一概には言えませんが、もし嫌いな仕事をしているなら、ガマンしてお金を貯めて好きなことをすることです。好きなことをするためにはお金が必要ですからね」

――サブカルチャーなどの新しい道に進んで発見はありましたか?

「一般的にオタクや引きこもりと分類される子どもたちって、とてもピュアなんですよね。しゃべり方があまり上手じゃなかったり無表情だったりするけど、話をしていくうちに、ニッコリと笑ったりしてくれる。そのことが分かってきました。ニコニコ動画も、元々はそんな子たちが自分を表現する場だったと思うんです。私ね、『ぼくとわたしとニコニコ動画』という曲を聴いたとき、泣いたんですよ。そうか、今の子たちってこんな状況なんだって」

――その涙は小林さん自身と照らし合わせて、という意味でしょうか?

「いえ。純粋にその子たちのことを思ってです。私の場合、小学校5年生からひとりで生活してきたことからくる分かりやすいさみしさだから。ところが、今の子たちは、自分でもわけがわからないさみしさを持っている。それが彼らの作る曲の中にふと出てくるんです。どうしたらいいんだろう、と悲観的になりますがどうしてあげることもできない。でも、そんな子たちが私の歌う『脳漿爆裂バーサン』を聴いて“ワロタwww”ってコメントしてくれる。それがすごくうれしいんですよ」

――小林さんが歌い続けてきた時代とは違いますか?

「以前は、歌い手、聞き手がはっきりと分断されていましたが、ネットではどちらも一緒なんです。歌ってくれてありがとう、聴いてくれてありがとう、その目線が同じ。コミックマーケットも同様です。売る側も買う側も参加者。そういう発想を教えてもらいましたね」

「軽快なノリがとても大事」。インタビュー中、小林の大御所らしからぬ柔軟な発想に何度も驚かされた。結果ではなくまず過程を大事にする、そんな考え方が自然体で生きる今の「小林幸子」を作ったのかもしれない。

<関連サイト>
小林幸子 http://www.sachiko.co.jp/
ムービープラス http://www.movieplus.jp/
「この映画が観たい」特別ページ http://www.movieplus.jp/guide/mybest.html